【風木SS】荊の輪
※風木、セルジュとジルベールのifです。
※原作の結末のネタバレあり。
花弁たちが輪状に寄り添い、きみの目の上で綻んでいる。それらは根を失いながらも、静かなきみのかんばせを引き立てる為に呼吸をしていた。
「きれいだよ、ジルベール。とても似合ってる」
きみが纏う色彩は、ぼくの記憶の奥底で"花"だと印象づいている花の造形、そのものだった。ぼくの両親が愛したこの村で、つい今しがた摘み取った命。
「この土地の香りは心地良いね」
「……うん」
ジルベールは素直に頷いたのち、恥じらいをやり過ごすかのように目を逸らし、広い地を見つめてフッと笑う。純然とした思いを抱いている時こそ、ジルベールはこうして少し渇いた仕草をするのだ。そうしてこんな風にぼくの目を見ようともしないきみが、ぼくは好きだ。
しかしぼくらはもう、あまりにも永すぎる時をこの野原で過ごしている。
けっして陽の翳らないぼくらの土地、ぼくらの時間。
ぼくはそれらに、別れを告げなければならない。
「……ジルベール」
「……なに、セルジュ」
「このかざりは、きみにとって窮屈かい」
嫋やかに顔を上げたジルベールの頬を捉え、きみをひときわ香り立てている、その花冠に触れる。華やかな命が巻きつく軸は、ひどく鋭利な感触がした。
「……ああ、少しね」
「……そう」
ぼくはジルベールにふたたび向き直る。そうしてきみの荊の冠を、ゆっくりと持ち上げる。
きみの身体を、ぼくが仕立て上げたきみの姿から解放しよう。
きみはもう、ぼくの隣にいない。
きみはもう羽ばたいてしまったのだから。
薄いまぶたが降り、その頬や唇から、明媚な色が消えてゆく。
きみとぼくを包んでいたはずのチロルの情景も、風に攫われ白んで行った。
亡き者の復活を望むぼくは、もういない。
その荊の輪をぼくへと引き渡したきみは、この目の上にたたずむ、大輪の花となったのだ。