【トーマSS】光射す隙
白肌の下に流れる情熱の血を、そのまま映し取ったかのような黒い髪。
それと同様の輝きをたたえるは、我らがシュロッターベッツの制服だ。
豊かな見目のユリスモールが生徒たちの小わきを通り過ぎれば、たちまち熱のこもった視線がひしめき合い、荘厳な聖堂を満たしてゆく。
未発達な身を包む漆黒は、ここにいる誰にとっても等しい色であるはずなのに。
大多数の生徒が一様に、"彼の持つ『色』は異種なのだ"と、胸を高鳴らせているのがわかる。
それは純朴な情景であったり、俗っぽい感情であったり、様々だけれど。
「……ほんとうに、よく持つな」
聖堂での定例ミサにおいて、ユーリは今日も、渇ききった語調で福音書の朗読を終えた。
* * * *
いつものように寝そべる中庭。
このぼやけた若草色がどこまでも続いてゆけば良いのに、ふと視界の端にひらめいた暗色によって、ぼくの希望は裏切られる。
「オスカー!」
「……なんだ、アンテ・ローエか。ぼくの休息をじゃまするなといつも……」
「眠たいのなら、日曜の午前中なんて部屋で過ごせばいいじゃない。ぼく知ってるよ、きみがユリスモールの朗読を聴くために、最近わざわざミサに来ているってこと!」
ユリスモール、ユリスモールと、
この下級生の苛烈な声は、最近やけにその名を繰り返す。
「そりゃアンテ、ぼくにだって至極まじめな生徒でありたいという気分がめぐってくることがあるんだぜ。ユーリのためだなんて誰が言った?」
「だけどきみ、きみの視線はいつもーー!」
「友人を視界に入れて、なにがいけない?」
「……オスカー、なぜぼくのきもちに」
「お前の気分がどうしたって?」
「……っ、もういいよ」
その小柄な下級生は、くるりとぼくに背を向け、後手に指を組みながら身体を揺らしているが、この場を立ち去る気配はない。
「……オスカー、きみ、よく持つね」
「……なんの話?」
「……だってユリスモールの……、いや、なんでもない」
ーーそういうお前もよく持つと思うよ、アンテ。
華奢な肉体に不釣り合いな、漆黒の制服。
きみのその枠組みはまだ、きみを守ってくれるのだからよいのだけれど。
だけど、ユーリはそうじゃない。
彼はもう、彼が抱いている暗闇と、彼を包む濃色を、自身で混同してしまっているのだ。
シュロッターベッツの優等生、ユリスモール。
あの美しい髪から足の先までが、誰から見ても、彼自身においても、完全なるユリスモールなのだった。
ーーそんな彼にもどうか、
光の射し込む隙間を、と。
黒色から浮き出た亜麻色の巻き髪を見上げながら、そう願わずにはいられない。
※ワンライ/お題:制服